そのデブの部屋も僕たちの同様のあい部屋だが、どうやらそいつしか泊まっていないようだった。太っているといっても小太りぐらいな感じだが、太っているやつはだらしないと思っていたが、そいつは意外と部屋を小奇麗に使っていた。
 マリファナと言っても吸い方はいくつかある。普通のタバコのように乾燥した葉を巻紙に巻いて吸う方法と、プラスチック製の透明のパイプで吸う方法だ。
この吸い方によって効き目は全く違う。タバコ式ならじわりじわりだが、パイプ式なら一気にハイになる。
 デブの方法は後者の方だった。
 まず、僕が吸った。パイプにマリファナを詰め込み、デブがマリファナに火をつけ一気に吸い込む。火の熱が肺に入るのでかなりきつかったが、5分後にはハイになってた。次に日本人のやつが吸い、その次にデブが、そしてカナダ人が吸った。
 そのデブも嬉しそうに、「お前らはじめてマリファナやるんだったな。Welcome to America!! グラスホッパー君!」とはしゃいだ。グラスホッパーとは、僕らはマリファナ初心者なのですぐにハイになってはしゃぐ、バッタも葉っぱを食べてピョンピョンはしゃいでるのをもじったものだ。
 4人は超ご機嫌になった。たかだか壁が白いだけで大爆笑だったし、指が5本あることですら大爆笑だった。何もかもが楽しくてしょうがなかった。

 そして4人はコミュニケーションホールへ行った。ホールは人が20,30人くらいいて盛り上がってたが、たぶん僕らが一番盛り上がってただろう。
しかし、ホールについた頃には4人とも足はフラフラで平衡感覚もなく、完全に頭のいかれたやつらになっていた。それでも僕は何とか平静を装って、見知らぬインド人としゃべったり、カナダ人の女の子としゃべったりしてたが、もう今すぐまた大爆笑したくてたまらなかった。

 そんな中、例の日本人の男の子の精神は錯乱し始めていた。まず、デブのアメリカ人のやつに日本語で喰ってかかり始めた。
 「何が欲しいんだ、金か?金が欲しいのか?」などと叫んでいるのだ。
 デブのやつは慌てず、「一体何を言っているんだ?日本語じゃわからない。英語でしゃべってくれ。」と言うが、それが「金を出せ」に聞こえたらしく、
 「いくらだ?いくらなんだよぉ?あ〜?」と日本人のやつは騒いでいる。
すぐに仲裁に入ったが、今度は僕もそのデブとグルになって例の日本人のやつから金を巻き上げようとしていると思ったらしく、
 「りょうもかよ、あんたもグルだったのか!」と収拾がつかなくなってきてた。
 今度はそこにマリファナを一緒に吸ったにカナダ人のやつも入り、「どうしたんだ、何を騒いでる?」と、さっきの楽しい馬鹿騒ぎから一変した。
 ここで僕が感じたのは、マリファナはお酒と似た感じで酔っ払っているようになるが、内面は全く違うと言う事。肉体と精神が完全に分離している事を認識させられる。お酒の場合、精神的にも「どうでもいいやぁ〜」と言う感じになり、肉体もコントロールが効かなくなる。足がふらつき、ろれつが回らなくなる。だが、マリファナの場合は、精神的には「やばい、しっかりしなくちゃ」と思うのだが、肉体のコントロールがお酒以上に効かなくなる。そのため、精神的に弱い人やコントロールの弱い人は、「やばい、しっかりしなくちゃ」と言う気持ちの反面、何もできないでいる事に恐怖を感じる。そして、マリファナのすごさがここからで、その恐怖心が増大する。いや、正確にはもともとその人固有に持っていた恐怖心がどんどん表面化していくのだ。なぜそこまで言い切れるかというと、この後それを経験したからだ。

 まず、例の日本人に「おい、よく聞け。今お前の肉体と精神が分離しているのを感じているだろう。そしてお前の心の中からいろんなものが沸いてきてるんじゃないのか?それらを静めろ。否定しろ。」と言うと、僕の予想通り、彼はすぐに黙り込んだ。
そして黙ってうなずいた。
 だが、突然の事にデブのアメリカ人とカナダ人はちょっと怒り始めたので、例の日本人の言ってたことを説明し、今のやつの状態も説明した。
 すると、デブのやつが「ああ、たまにいるんだ。そうやってトリップしちゃうやつ。もう今日は寝た方が良いよ。リョウはやつの部屋知ってるのか?」と理解してくれた。
カナダ人のほうは、ウンウンと頷きすぐに酒をまた飲み始めた。
 そして、僕はこのトリップしてしまった日本人のやつをベッドへ連れて行った。

 「おい、もう今日は寝よう。俺ももう寝るからさ。いいな?」と、やつをなだめてそれぞれベッドに入る
が、全く寝付けない。
 やつが「りょう、寝た?」、「いや、寝てないよ」、「全然寝れなくない?なんかさ、いろんな考えが浮かんでくるんだけど。」、「ああ、おれもだよ。」
 そう、僕にもいろんな妄想というか感情が浮かんできた。
『ホテルのみんなが今すぐ僕を殺しに来るのだ』や『さっき話してたカナダ人の女の子をレイプしてやるぞ』(と言ってもあまり綺麗じゃなかったのだが)や『今すぐみんな殺してやる』などなど、あらゆる感情が浮かんできた。だが、それと同時にそれらの感情を冷静に見つめている自分もいた。
 「なあ、いろんな感情や妄想が浮かんでくるだろう。それらを全て否定してやれよ。現実じゃないんだ。」と僕はそいつに言った。「うん、妄想だよな。こんなの。」

 いつのまにか、僕もその日本人も寝ていた。
 翌朝、僕はいつものように起きたが、そいつは昨日の騒ぎを反省しているようで僕に謝り、ちょっと元気がないそぶりだった。僕は先に朝食を食べにホールに行った。
例のデブのアメリカ人もやせたカナダ人の姿もなく、カナダ人の女の子や、インド人のやつは普通に朝食を取っていた。するとあるオーストらリア人の女の子が僕に今日は何処へ行くのかたずねてきた。そこで僕は何を思ったか、その場にいたみんなに向かって、「おーい、ちょっとみんな聞いてくれ。今この子は僕に今日何処へ行くかたずねてきた。みんなは何処へ行くんだ?ちょっと、君(ホールの一番はじにいた人に)から発表していこう。さあ!」と、言い始めてしまった。
 もちろん、みんな鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてた。結局誰も何も言わないので、僕は「俺はな、今日!ラスベガスへ向かうぞ!ラスベガスだ!その後は、グランドキャニオンを目指し、そして、ニューオーリンズへ向かう。そして、その次はメキシコだ!」と、みんなに演説し始めてしまった。
 そして、最初に僕に尋ねてきたオーストラリア人の女の子に「で、君は何処へ行く?」と聞き返すと、「学校・・・・」。
 そう、彼女は医学の勉強でアメリカに来ておりユースホステルをマンスリーマンション代わりに使っている人であった。そう、その事はついさっき朝食を食べにホールに来た時に聞いたばかりだった。『あ、さっききいたっけ。』と、反省し、その隣にいた男の子にも「では、君は何処へ行く?」と聞くと、「学校・・・・」。
 あっ、しまった。この人も勉強のためにアメリカに来ているんだった!これもさっききいたばかりじゃない!
 そうすると、他の人が、「リョウは、人の話し聞いてないじゃない」と、突込みを入れてくれ、みんなで笑った。

 そのあとはみんな手早く朝食を済ませ、僕も部屋が同じだった、例の日本人の男の子にお別れを言い、ユースホステルを後にした。
 ユースホステルの入り口の脇で座り込んでうなだれている人がいたのだが、それが以外にも前夜に一緒にマリファナをしたカナダ人だった。あえて何も声をかけずに去ろうとしたら、ある男の人に呼び止められた。それは同じユースにいたフィリピン人の人だった。年は僕よりもいくつか上で、彼が同じユースであった事もフィリピン人であった事も、この呼び止められた時に話しをしてわかった。
 彼はさっきの朝食での出来事が印象的だったらしく、できたら僕といっしょに旅をしたいと思ったとのことだった。だが、彼はこれからサンフランシスコへ向かうとの事だった。そのサンフランシスコへ一緒に行かないかと言うのだ。
 だが、僕は断った。お金の問題もあったが、ニューオーリンズを見たかったのだ。そしてもメキシコにもかなり興味を持ち始めていたのだ。
 その事を彼に話すと、じゃあ、サンディエゴで会わないかと持ち出してきた。
サンディエゴとはメキシコとの国境にあるアメリカの町で、綺麗で比較的安全な町としても有名で、映画「TOP−GUN」の舞台にもなり、またEaglesの「ホテル・カリフォルニア」の実物がある町でもある。
 「いいよ。サンディエゴで会おう。」と僕は承諾すると、彼は「確か、サンディエゴにはユースホステル一つある。そこで会わないか?日にちはこの日でどうだろうか?」
「ああ良いよ、ただ、その日にそこへいけるか確実に約束はできないよ。でも、ベストは尽くすよ。」と僕は軽く約束した。
 そして、お互いにメールアドレスを交換し、握手をして別れた。
 彼はなんだったんだろうか、別にゲイでもなさそうだったしお金にも困ってなさそうだった。(むしろ僕が困っているのだ)

 そして、ラスベガスを目指そうと思い、GreyHoundのバスターミナルまで歩いた。
 バスが到着するまでは2時間以上あったので、スーパーで食料などを購入し、公園で上半身裸で日焼けをし始めた。
 すると、今度は変な怪しいおじいさんが近づいてきて、真剣な顔で「おい、お前、こんなところで裸になっていると、呪いをかけられるぞ。」みたいな事を言われた。正確に何を行っているか聞き取れなかったが、とにかく何かよくないことが起きるみたいな事をいってる感じだった。
 訳わからないが、気持ち悪いので取りあず服を着てすぐにバスターミナルに戻った。この国はほんとわけがわからない人が多い。

 そして、僕はカリフォルニア州を後にした。生まれて初めて砂漠を見る事ができるのだ。まあ、アラブのそれとは違うが。だが、もうこの頃に既に砂漠気候の影響が出始めていた。

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