次の日の朝、ベッドの上で地図を広げさっそく次の目的地を探し始めた。次の町は、Hermosillo(エルモシーリョ)に決定。Chihuahuaから西へ山脈を越えた先、5、600km行ったところだ。
さっそく、どうやっていく事ができるのかホテルのおばちゃんとかに聞いてみた。
どうやら、Chihuahuaパシィフィコと言う電車で行くか、長距離バスとの事。ずっとバスばかりだったし、電車の方が安いだろうと思ったので電車で行く事にした。
ちょうど、ホテルから駅までは何時間か歩けばいけるらしいのでだいたいの道を覚えて出発した。
ホテルを出て2,3分歩いた時だった。通りの向こう側を歩いていたおっさんが、何やら僕を呼んでいた。『朝から、また何だって言うんだ』と、いぶかしく思いながらも、おっさんの話を聞いてみると、「どこにいくんだ?」と聞かれたふうだった。(この時既にフィーリングでスペイン語を解釈) 「Hermosilloへ電車で行こうと思って、駅に行くつもりなんだけど・・・」と言うと、「なら、ついておいで。俺は今から会社に行くんだけど、同僚が仕事で駅の方へ行くから乗せてってもらうといいよ。俺が話をつけてあげるよ。」と言うような事を言ってくれた。『おお、ラッキー!』とおっさんのお言葉に甘える事にした。
おっさんの同僚はなんと白人で英語がしゃべれた。「白人なのに、どうしてメキシコにいるの?」と尋ねると、「以前はアメリカに住んでたよ。だけどね、メキシコの方が気に入ったんだ。ちょうどスペイン語もしゃべれたし、仕事もあったから移り住んできた。」と白人のおっさんは答えた。おっさんの名前もご存知の通り忘れたが、とても人のよさそうなおっさんで映画「メジャーリーグ」に出てた監督さんみたいな感じだ。
駅についたが、ちょっと期待はずれだった。それはあまりにも寂れた駅だったからだ。ちょうどそれは北海道とかの田舎の電車が一両しかないような駅だったからだ。しかも、お客は誰もいなかったし電車も貨物しかなかった。まあとりあえず、電車賃と次の出発時刻を抑えなくてはと思い、スタッフがいる詰め所へ向かった。
やはりここでも期待はずれだった。電車賃が6000円もするのだ。何てことだ!実はこの時、残りがあと6000円くらいだったのだ。全財産投じてHermosilloへついても・・・
そこでバスで行く事にした。
なのでバスターミナルへ行かなくてはいけないが、駅からどうやって行くかわからなかった。とりあえず、大きな通りの方へ行こうと歩き始めたら、タクシーのうんちゃんに声をかけられた。ただ、もうあまりお金を使いたくなかったので、「300円しかない」と言ったら、「いいよ、それで行ってあげるよ。」と快諾してくれた。ただ行き先がうまく伝わらなかった。バスターミナル、バスディーポと言う言葉に似た言葉がスペイン語にはないようで、
バスとHermosilloと言う単語しか通じなかった。
すると、バス停に連れて行かれた。ちょうどバスが来たので何も考えずに飛び乗ったが、バスのスタッフが、「君、チケットは?」と言ってきた。僕は、「持ってないので、売ってくれ。」と言うと、「何処へ行くんだ?スペイン語は話せるか?」
「いや、スペイン語はわからないが、Hermosilloへ行きたい。」と、とにかくHermosilloを強調した。
「Hermosillo? Hermosilloは逆だよ。道路の反対側にもう一つバス停があっただろ。あれだよ。これはバスターミナルへ行くんだ。」
『がび〜〜ん』 そういえば、反対側にもバス停があった気がする・・・
「まあいい、バスターミナルからHermosillo行きのバスがあるからそれに乗ればいけるよ。」
「あ〜、でもこのバスのバス代はどうしよう?」と、僕は聞いた。
おっさんは「ああ、いいよ。一駅だから。いいよ」と言ってくれた。
『おお、今日はついてるぞ!』と、喜び沢山御礼を言っておいた。
バスターミナルでさっそくHermosillo行きのバス会社を見つけ、チケットを購入しようと値段を見ると、下げっ!4000円もする! でも、まあいつまでもChihuahuaにいるわけにも行かないので泣く泣くバスチケットを購入することにした。
出発時刻はすぐに来た。
バスにはChihuahuaに来る時のような少なさではなく、たくさんの人々が乗っていた。僕の隣には人相の悪い兄ちゃんがエロ本を読みながら座っていた。
最初は順調だった。
特に何事もなく平穏に進んで行くが、ChihuahuaからHermosilloまでには大きな山脈を越えなくてはならないくらいだ。
バスが山に近づくに従い、人里寂しくなる(周りは何にもない砂漠)が検問みたいなのが現れた。このときからやばくなり始めた。
検問をしているのはメキシコの州警察だった。二人の警官がバスに乗ってきて、一人一人出身地と行き先を聞いている。何を聞いているかわかっているので、答えるのは簡単だと思うだろうが、非常に難しい事が一つあったのだ。それは、『Japan』の発音だった。 カーラと話した時も他のメキシコ人と話した時もそうだったのだが、『ジャパン』と言う発音ではスペイン語圏では通じないのだ。これは日本に戻ってきてから知ったのだが、アルファベットの『J』はスペイン語で「ホ」と発音する。『Hermosillo』は『エルモシーリョ』と言うが『H』は発音しない。こんなこと知らない僕は、警官の「出身地は?行き先は?」と言う質問に、「ジャパン?ジャパン?」といってしまった。警官は怪しいと思ったのか、「バスを降りろ」と合図をして僕を一人バスから降ろした。
バスを降りるとそこには10人くらいの警官が待ち構えていた。日本の警官のようにぴちっとした運動しにくそうな制服ではなく、防弾チョッキに軍服のようなパンツで、『よく使っています』といった感じのガンフォルダーと、アメリカ製のガンで装備していた。みんな僕よりも背が低いが、筋肉は僕よりもありそうで訓練されている事がよくわかる。
みんなあっという間に僕を囲み、「スペイン語はしゃべれるか?」と質問された。
「スペイン語はしゃべれない。誰か英語をしゃべれる人いる?」と逆に質問した。
「いや誰もしゃべれないよ。君は何処から来た?」
「ジャパンだよ。」 「ジャパン?何処だそれは??パスポートは持っているか?」
「あるよ、ほれ」とパスポート手渡すと、僕の出身国に納得したようだった。そして、
「ここにはなんてかいてあるんだ?」とパスポートのあるページを指差した。
そこには、『この者は日本国にて保証された者である。よって、受け入れた国ではこのものを日本人として受け入れた国で身柄を保護する義務がある。』と言うような内容が英語で書いてあった。それをジェスチャーなどを使って何とか説明してみたものの、彼らの頭の上には『???』が並んでいた。
そしてある警官が、「日本は何処にあるだ?」と聞いてきたので地面に世界地図を書いて説明し始めた。するとさらに他の警官が、「おお、クンフーだ」と言い始めた。『クンフー?一体何のことだ???』と疑問の顔をしていると、その警官はブルース・リーのまねをし始めた。そう、『カンフー』のことを言っていたのだ。
そこで、僕は「カンフーできるよ。」というと、みんなに「見せてみろ」とせがまれた。
僕は警官たちに危ないから後ろに下がって広がってと合図して、ブルース・リーの物まねをして見せた。すると、「おおッ!!!」と驚きの声が! みんなまじめに驚いた顔をしている! 調子に乗ってさらに習った空手の型をも見せると、「おおおおッ!!!」とさらに。
結局カンフーの真似を見せて、この場は収まった。
バスに戻ると、これらを見てたほかのお客たちはみんな拍手をして僕を迎えてくれた。そして、「カンフーを見せてくれ」とここでもせがまれた。さっそくまたブルース・リーの真似をすると、「おおおっ!!すごい」と拍手喝采に包まれた。
隣に座っていた兄ちゃんが説明してくれたが、 この先の山脈には盗賊などがいるのでここら辺は検問が多いそうだ。
またしばらく行くと、 やはりまた警察の検問があった。
先ほどと同じように二人の警官がバスに乗ってきて、全員に身元確認を行っている。
が、さっきとは違う質問をしている。しかし「何処から来た?何処のへ向かう?」などと聞いているようではあったが、明らかにさっきと使っている単語が違った。
そして警官の質問する乗客が僕の番になった。ぼくは「あ・・・、えっと・・・」などと言ってしまったので、やはりまた僕だけバスを降ろされてしまった。
バスを降りるとやはり10人くらいの警官が待っていた。そして先ほどの同じようにパスポートのやり取りが行われ、僕が日本から来たと言う事が警官たちにわかった。
警官の中の一人が、近づいてきて何やら訳のわからない事を言いはじめた。僕は「何を言っているかわからないんだけど」というと、何やらジェスチャーをはじめた。僕の事を指差し親指と人差し指をこすっている。『ああ、お金か。そうか、日本のお金を見てみたいんだな。』と僕は理解し、100円玉と10円玉を見せた。そして、「これは100円玉と言って、US1ドルの価値があるんだ。そして、10円玉はセントコインと同じ感じ。わかる?」というと、警官はまたもや「????」マークをつけているようだった。『まあ、100円くらい上げてやろう。』と、その警官に110円を「US1ドルだよ」と念を押しながらわたした。その警官は100円玉を目線の高さまで上げて、不思議そうに見つめていた。そこで僕はまた「カンフーできるよ」を連発し、その警官たちの前でもブルース・リーをひろうした。もちろん、ここでも僕のブルース・リーは大受けだった!
気分よくバスに戻ると、他の乗客たちはまた爆笑しながら迎えてくれた。
それから数時間、バスは山道を登っていた。既に日は落ちて、山の道路はバスのライトしか明かりはなかった。全く真っ暗だった。月の明かりもなかった。
そして山道を数時間行ったところで、5,6人で乗車していた家族たちが急にざわめき始めた。どうやら、バスの運転手にここで降ろしてくれと頼んだいるようだ。しかし道路は何処にもバスの停留所もなければ、町の明かりも家の明かりもない。あるのは闇だけだ。だが、彼らの言いなりにバスは止まり彼ら5,6人の家族はバスを降りた。
僕はここでいろんな事を想像した。
『彼らは何か身の危険を察知して、バスから降りたのか。』『いや、彼らが山賊の仲間でここでバスを降りるということでバスを止めて仲間がバスを襲うのか。』『それとも、この先に何かあるのか。』・・・・
だが、周りの乗客はほとんど寝ていたと言う事もあり、誰も気にとめないが僕は降りた彼らを目で追っていると、バスの明かりにまぎれて彼らは猛ダッシュでどこかえ消えてしまった。『???一体何が起こるんだ???』 僕は一気に警戒態勢に入り、バスの周りをちらちら目を凝らした。
しかし何も起こらなかった。『しかし、一体なんだったんだろう。』 僕には今でも謎でしょうがない。
それからはいたって平穏で、夜中の11時ごろ小さな町に到着しバスの運転手も含めみんなで食事などの休憩に入った。
しかし、このあと僕の人生最大のピンチが訪れた。やはりまた検問に出くわしたのだが、相手は警官ではなく軍隊だったのだ。
軍隊の検問は 麻薬・銃火器などのチェックが主で、今までもこのメキシコに来てから何度かあったが荷物や荷物置き場のチェックにとどまり、人物チェックまでされなかった。
しかし、ChihuahuaからHermosilloへ向かう途中の山岳地帯での検問は別だった。まさに高速道路の料金所と同じものが設置されており、一台一台念入りにチェックが行われていた。後でわかったのだが、メキシコは以前も行ったとおり合衆国制のため、州単位で管理が行われているため州から州へ移動する時にはこのような検問があるのだ。
今までの検問同様に、一人一人の出身と行き先を尋ねIDのチェックまでされた。
さすがに3度目だったので出身と行き先は答えれえるようになったので兵士の質問には難無く答えることができたのだが、IDがまずかった。「IDを見せろ」との質問にすかさずパスポートを渡し、兵士は僕のパスポートの中をじろじろ読み始めた。
僕はちらりと顔色を伺うと、途中でいぶかしげな表情を兵士は見せるとバスを降り何処かへいってしまった。そしてボスらしき人間を連れてきた。白髪交じりのそのボスらしき人間はたぶん隊長か何かなんだろう、僕にパスポートの事でいろいろとスペイン語で質問してきた。が、スペイン語をしゃべれない事を伝えると、隊長はジェスチャー交じりで「ビザはどうした?」と尋ねてきた。『ビザ?そんなもんねえよ』と思いながら、ない理由を伝えた。
今となれば非常に怪しいのだが、メキシコ旅行の際には日本人は三日間の滞在ならビザがなくてよいらしいのだ。日本に戻ってからも調べたが、どの旅行書などにもメキシコにかかわらず、いろんな国で30日間の滞在ならビザはなくても良いと書いてある事があるが、そもそもそいつがいつこの国に入国したなんて何処にも書いてないのだからビザについて尋ねられるたびに『今日はまだ二日目です』と答えればよいのではないか?
ない理由・・・じつはEl Pasoの国境検問所でメキシコからアメリカに入る検問所のところでメキシコの警官にビザについて尋ねた事があった。すると、警官は「君は何人家?」と質問され「日本人です。」と答えると「じゃあ、いいよ。ビザなくても平気だ。」と言われてたのだ。僕はそれを大したことではないと思っていたし、実はビザって物がよくわかってなかった。ビザなんてなくてもいいものだと思っていた。
その『ない理由』を一応英語で説明すると隊長は英語がしゃべれないらしく、困った顔をし「とりあえず、君はここで待て。このままバスに乗せることはできない。今、英語をしゃべれるやつを呼ぶから、待ってくれ」となり、若い兵士が僕に代わって僕のバックを取ってきてバスは出発してしまった。
バスの中の乗客たちは笑いながら僕に手を振ってさよならを言ってくれた。『嬉しくねぇ〜』・・・・
そして、僕は荷物と一緒に犯人護送車のバスに一人軟禁された。その日の夜はとても寒かった・・・
『こうなると、いつ睡眠が取れるかわからない感じだな。とりあえず、寝るれる時に寝ておこう。』と思い、バックから着る物を取り出し厚着をしてバスの中で横になって眠り始めた。
何時間経ったかなんて想像できなかった。気づくとさっきの隊長に起こされた。
そしてさっきとは違う若い兵士がそばにいて英語で話された。「君はビザがないのだろう?なぜビザなしで旅行しているんだ?」
「さっき、この人にも説明したが、メキシコ国境の警官にビザについて尋ねたが日本人だから、ビザがなくても良いと言われたよ。」
「どの町からメキシコへ入った?」
「El Pasoだよ。Visaはなくても良いと言われたからそうした。」
「ふむ・・・そうか・・・」と若い兵士が僕の言ったことを理解すると、隊長に説明した。
すると二人で何やら話が行われた後、若い兵士が「とにかく、ビザがないのはまずいので君にビザを発行する。ここから一番近い町に今から行こう。ビザさえ発行すれば君は自由に旅をしてくれ。」と言われ、若い兵士と隊長と僕は若い兵士の車と思われる乗用車に乗り、検問所を出発した。
幸い、手錠も何もされず丁寧に扱われた。だが、かなり困った状況だった。
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